今日も一日が終わろうとしている。
夕日に照らされた電車の中で、ふと彼のことが頭をよぎった。

突然現れたかと思ったら、いきなり「ボクといたら幸せになれるよ」とか「イタリアにおいで」とか、意味不明なことを言ってきて。
普通なら相手にしないんだろうけど、あまりに自然に、まるで空気のように(いや、空気より自己主張が激しすぎるほど激しいけれど)僕にまとわりついてくる。
大学、道端、家…いつでもどこでもだ。でも。

いつからかそれが当たり前になっていた。



「ちょっと行ってくるね」

僕が理由を問う前に(彼と一緒にいることは普通ではなかったはずなのに)、彼は僕に背を向けた。
それが一週間前。
忘れようと思った。
あれは事故のようなものだから、すぐに忘れられると思った。
そんな考えは、けれど三日と持たなかった。
彼の存在は強烈すぎた。

「(電話ひとつよこさないくせに)」

そうは思うが、実は彼の連絡先なんて知らない。
というより、彼についての情報なんてたかが知れている。

大人びた中に見える子供のような無邪気さとか。
儚げに見えて実はしっかりした芯を持っているとか。
そして…少しかわった名前。

向かいに座る女性が持つ花と同じ名前。

「白蘭…」

隣に座るサラリーマンにすら聞こえないくらいの小さな声で、その名を呼んだ。
心の底から浮かんでくる、この想いとともに。






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想いの大きさは、白蘭>正チャンって感じがします。
ですが、実は白蘭サマが感じているよりずっと、正チャンの白蘭サマへの想いは強いと思います。
本人無自覚ですが。
タイトルは、ちょうど下書きを終えたときに聞いていた曲から拝借。
聞いてた部分の歌詞がやたらとイメージぴったりだったので…なんたる偶然!

2007.4.23 1:43