Arrivederci, il mio eroe
(アリベデルチ, イル ミオ エローエ)
知っている。
笑顔の眩しい貴方の顔が最近何処か落ち着かない。
知っている。
それがいつからなのか。
それが何故なのか。
知っている。
彼を悩ましているものは。
彼の自室へのお目通りを禁止された。
遂に、とそう感じただけで大した感慨はなかった。元々ミルフィオーレの幹部とはそれ程親しい間柄ではなかったし、彼らが余所者の自分をどう思っているかなど、考えずとも知れたこと。
つまりこのファミリーに味方は白蘭しかいない。
いや、それでは語弊がある。
白蘭しかいなかった、とそう言うべきだ。
「…白蘭。」
自室の一歩手前、彼の仕事部屋の大きなアンティークソファに腰掛ける。
今日もこの部屋は蘭で彩られている。
貴方は今、誰も見た事がないような表情で苦渋の決断をしている頃だろう。
(苦渋だと、思うのは僕のエゴだけれど。)
必死に貴方がミルフィオーレのボスであることと、白蘭という人間であることを天秤に掛けて、その方法が間違いであることに気付いてしまったのだろう。
元からそんなものは測らずとも見えた答えなのだ。
貴方に連れ出されたあの日から、カウントは日々、僕らの知らぬところで進められていた。
それに気付いたのは貴方よりもずっと、遥かに昔のことで、そして覚悟を決めたのも、貴方よりもずっと昔のこと。
元より交わることのない人生が、何の奇跡と必然を混ぜたのか、すれ違って出逢ってそして一つになっただけであって、そんなちっぽけな要素だけじゃ世界に転がるその他多数の要因の前では成す術なんかないんだ。
だから、と沈み込んでいた体をソファから引き剥がす。
貴方へ続く扉の前に佇んで、きっとそれでもいつもと変わらずベッドでうんうんと唸って考えているであろう貴方にそっと想いを馳せる。
迷う必要なんかない。
貴方は白蘭。ミルフィオーレファミリーのボス、麗しき白蘭。
奇跡と偶然を混ぜたひと時だけは、僕のものだった“白蘭”。
今も僕に向けられた貴方の心だけは、どうか白のままでいて。
貴方は白蘭。僕が最初で最後の恋をし、さいごまで愛した相手。
扉の前に軽く握った拳を一つ。
これがきっと、さいごのノックになるけれど、さいごの刻まで貴方を僕で埋め尽くせたことが、僕は今、堪らなく嬉しいんだ。
さよなら、僕のヒーロー。
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